Category Archives: 病気のご案内

クッシングの早期発見のために

前回は、クッシング症候群の治療薬の一部が流通していないことをご案内しました。
この【クッシング症候群】は非常に身近な疾患でありながら、発見されずに見逃されていることが多い疾患です。
それは『症状』が特殊だからです。

主に以下のような症状がみられます。
・よく食べる(多食)
・よく飲む(多飲多尿)
・お腹が張る(腹囲膨満)

一般的な感覚では、『うちの子はシニアなのによく食べて太っちゃって困るわ♪』と感じるはずです。
実際に『元気なシニア!』という子もいると思いますが、【クッシング症候群】の症状かもしれません。

その背景では、以下のような恐ろしいことが起こっています。
・免疫力の低下
・筋力の低下
・血栓症リスクの上昇
・血圧の上昇
・肝臓を中心とする臓器障害 などなど

散歩仲間で『元気だった子が急に亡くなった』という話を聞いたことはありませんか?
突然死を起こす病気の多くは『なんとなく元気がない』『ちょっと興奮すると席をする』などのサインがあります。
【クッシング症候群】は上記のように『元気に見える』ため、症状からの発見は困難です。

【クッシング症候群】を早期発見するポイントは……副腎のエコー検査です。

通常の副腎は左右ともに3~4mmの大きさですが、体格による誤差はありますが約6mmを超えると【クッシング症候群】を疑うことになります。

2021年の文献でも、副腎が既定の大きさを超えた場合の【クッシング症候群】の『診断精度は95.6%』と報告されています。

ワンちゃんの体内のたかだか数ミリの臓器を正確に描出する技術と検査機器がそろっていることが必要です。
エコー検査は痛くもなく、費用も高くありません。
【クッシング症候群】を疑う所見があったら気軽にエコーを見てみましょう!

獣医師 宮澤 裕

《参考文献》
2021 Ultrasound evaluation of adrenal gland size in clinically healthy dogs and in dogs with hyperadrenocorticism
(タップすると文献へ)

アドレスタンの流通が止まっています!

実は、かなり前から『アドレスタン』という薬が国内でほとんど流通していません。
これは【クッシング症候群】の子は生涯にわたって服用する非常に重要な薬です。

アイビーでは途切れることなくご用意できていましたが、ついに『5mgサイズ』のみ完全にストップしてしまいました。
同成分の海外薬を用意してあるため、服用中の子の治療がストップすることはありません。
しかし、国内流通の『アドレスタン』よりも価格が高くなってしまうことをご了承ください。

また、動物保険のアニコムさんでは、『海外薬』は保険対象外となるようです。
つまり、いつもより高価な薬を自己負担で使用することになります。
他の保険会社さんも同様のルールの可能性があります。
『アドレスタン5mg』を服用中の方は、ご自身の加入されている保険会社への問い合わせをお願いいたします。

なにより、非常に一般的な【クッシング症候群】について、もっと知っていただく必要性を感じています。
診断されていないだけで、たくさんの【クッシング症候群】のワンちゃん、または【クッシング予備軍】のワンちゃんがいるはずです。

本人はだるくてしんどい病気なのに、「病気の影響で元気に見えてしまう」という特徴があります。
飼い主様向けの書籍や、webの記事に病気の概要は書いてありますが、【クッシング症候群】と診断された方が読むには正しい記載だと思います。

診断がつくまでは誰もが「我が子は元気!」と勘違いする病気です。
『がん』を専門とする獣医師として、【クッシング症候群】は非常にやっかいで、いつも困らされる病気です。
そこで、次回から【クッシング症候群】について、連載予定です!
(書きたいことはたくさんあるのですが…頑張ります!)

獣医師 宮澤 裕

トイ犬種のご家族に知っていただきたい病気

こんにちは!獣医師の五十嵐です。

今回は、よくあるのに意外と見落とされているわんちゃんの病気をご紹介します。

皆さんのおうちの子は手をしきりに舐めていたり、耳の後ろや首を引っ掻いたりしていることはありませんか?
これからの季節は、皮膚や耳が痒くなって引っ掻く子が増えてきます。

しかし、皮膚や耳がなんともないのにこのような症状がある場合、それは『脊髄空洞症』かもしれません。

よくみられる犬種は、キャバリア、チワワ、ポメラニアンなどのトイ犬種です。
この子たちは、頭が丸くてかわいらしい子が多く、それ故、後頭骨や頸椎付近の奇形が多く発生します。
そうすると、脳脊髄液の流れが悪くなってしまい、脊髄に空洞ができると考えられています。

これは、人間にも存在する病気で、日本では難病指定されています。
患者さんたちは、首から手先にかけて針で刺されたような激痛が走ったり、虫が這っているような感覚がしたりするそうです。

わんちゃんたちはお話しできませんが、おそらく同じような異常感覚に襲われて首を引っかいたり、手を舐めたりしているのではないかと思います。

わんちゃんの脊髄空洞症のほとんどは、人間が自分たちにとって可愛くなるように品種改良していったために、起こる頻度が増えてしまった病気の一つです。
このような病気があると知っていただくだけで、毎日痛い思いをしているわんちゃんたちを救うことができるかもしれません。

もしご自身が飼育していなくても、周りにトイ犬種を飼育しているお知り合いがいたら、ぜひ教えてあげてくださいね。

【老化のサイン】について

今回のブログは看護師の北島が担当します。

本日はシニア期の「老化のサイン」についてです。

シニア期のワンちゃん、ネコちゃんは、普段の生活の中で老化のサインを出しています。

明るいシニア期を迎えるために、老化のサインを知りましょう!

《外観の変化(顔、体の全体)》

顔に白髪が出ます。白髪は眼や鼻、口の周りなどから現れ、徐々に体に広がります。

その他に、以下のような変化もよく見られますが、これらは『老化』ではなく、病気のサインのことが多いので注意が必要です。

・毛の質が変わった

・毛ヅヤが悪い

・皮膚が薄い

・皮膚が乾燥してフケが出やすくなった

・皮膚を指で押しても元に戻らない

《眼の奥が白っぽくなる(白内障)》

高齢犬が患いやすい眼の病気の1つが白内障です。

白内障にかかると黒目の部分が白く濁り、徐々に視力が低下します。

悪化した場合には失明してしまため、早期に発見して進行を遅らせることが重要です。

《口臭が強くなる、食欲減少》

口臭の原因で多いのは歯垢や歯石です。

歯垢・歯石によって歯周病を起こし食事をしにくくなることがあります。

また、歯周病が、進行すると細菌が歯肉の血管を通り、心臓や腎臓に重大な病気を引き起こす原因になります。

しかし、歯垢や歯石自体は老化とは関係がありません。

予防としては、普段からの歯磨きが効果的です。

《できものやシミができる》

老化が進むと皮膚にシミや、できものができやすくなります。

できものがイボではなく、悪性腫瘍かもしれません。

新しいできものを見つけたらお知らせください。

《体形が変わる》

食事量やカロリーを増やしていないのに、徐々に太るのは基礎代謝の低下が原因です。

逆に痩せている場合は、病気による消耗や、歯が痛くて食べられないなど、様々な原因が考えられます。

美味しいもので時間を稼ぐことも方法ですが、原因の特定が重要です。

《お尻が小さくなる》

高齢になり足腰の関節に傷みが出てくると、前肢に体重をかけ、後肢にかかる体重を減らそうとします。その結果、丸みを帯びていた後肢や、臀部の筋肉量が減り、お尻周辺が痩せて骨ばるため。お尻が小さくなったと感じるようになります。

《行動の変化》

以下のような行動の変化は、『老化』のこともありますが、関節の痛みや、体のだるさなどの病気のサインのことも多いため、注意が必要です。

・後肢の歩幅が狭くなり、トボトボと小刻みに歩く

・名前を呼んでも反応しない

・遠くのボールを追いかけない

・散歩でよく立ち止まる

・階段をのぼりたがらない →足腰に傷みがある可能性

日々の生活の中で小さな変化は一緒に過ごしているご家族の方が詳しいです。

そして、『老化』による変化と『病気』による変化はほぼ区別がつきません。

変化に気づいてあげるのがご家族の役割です。
その変化が『老化』か『病気』かを区別するのが動物病院の役割です。

病気は何より早期発見が大切です。是非、チェックしてみましょう。

気になることがございましたら、気軽にご相談下さい。

血管性脳障害について

こんにちは!獣医師の五十嵐です。

今回は、アイビーで最近続いている【血管性脳障害】について取り上げようと思います。

【血管性脳障害】は『脳梗塞』『脳出血』などを含む疾患群を指します。
特にキャバリアは起こしやすいようです。

少し前までは、犬猫で脳梗塞や脳出血は認識されていない病気でした。
ここ十数年で犬猫でもMRIを撮れるようになったこと、ペットの寿命が延びたことで認識されるようになってきました。

最大の特徴は”急に”神経症状が出ることです。

『脳梗塞』『脳出血』ともに血管性の障害で、症状で違いを見極めるのは困難です。
共通しているのは、発症から数日は悪化することがあるものの、その後は快方に向かうことが多いということです。

発症時は症状が激烈なので、ご家族はもちろん、慣れていない獣医師は安楽死を選択してしまうこともあるそうです・・・
基本的に治療法はありませんが、食事の補助やリハビリをあきらめずにすることで、通常の生活を送れるまでに回復する子もいます。

症状の強さに惑わされず、あきらめずに支えてあげることが大事ですね!
まずは、我が子の行動がおかしい!と思ったら、なるべく早くご相談ください!

上記のように、回復することも多いのですが、厄介なのは再発しやすいということです。
肥満や高脂血症、高血圧、内分泌疾患などは、【脳血管障害】のリスクが高まると考えられています。
治療できる病気は治療して、再発のリスクを下げておくことも重要です。

年齢やその子の体質に合わせたケアを相談していきましょう!