今年はたくさんの【肝臓癌】の子と出会いました。 我が子が【肝臓癌】と言われたら、大きなショックを受けると思います。 しかし、他の腫瘍と大きく異なる特別ルールがたくさんある特殊な腫瘍です。 正しい診断と治療を受けられれば、長く生きられることが知られています。 今回は肝臓癌についてご紹介します。
《診断》 肝臓癌は、ヒトと同様に無症状のまま隠れて進行します。 つまり、多くの場合は『健診目的の人間ドック』で見つかります。 見つけることはエコーで簡単に見つけられますが、 良性か悪性かの判断において、 『細胞診』は診断の”信頼度が46.9%”しかないことが報告されています。 むむむ・・・。
良性か悪性かについて正しい診断を得るためには、 しこりを部分的に切除して病理検査を受ける必要があります。 つまり、一度お腹を開いてしこりの一部を切除しなければなりません。
《生存期間と手術の関係》 上記の『病理検査のためのしこりの切除』のみでは、 生存期間の中央値は270日とされています。 ここで、病理検査のための『最低限の手術』で傷を小さく…と考えずに、 傷は大きくなるものの、『肝臓のしこり全体の摘出』に踏み切ると、 生存期間の中央値が707日まで跳ね上がります。
そして、肝臓癌が単独であれば、多くの場合は『完治』してしまいます。 運悪くしこりのすべてが切除できない状況で見つかったとしても、 できる範囲での切除手術を受けることで生存期間の目標を707日に伸ばせます。
《手術以外の方法》 肝臓癌に有効な化学療法(抗がん剤)はありません。 もともと肝臓は体内の毒素を分解する役目をもつ内臓です。 お酒を飲むと肝臓で分解されるように、 投与された抗がん剤をお酒のように分解してしまうのだと考えられています。 しかし、分子標的薬というグループの内服を飲むことで、 67%のワンちゃんは肝臓癌の進行を止めたり遅らせたりできます。
《その他の要因》 もちろん、ワンちゃんの年齢や体力、他に併発している病気などによって大きく変わるため、ひとまとめにすることはできません。 逆に言うと、肝臓癌になってしまっても、癌の治療とともにワンちゃんの体のサポートも併用すれば、一緒に暮らせる期間が大きく伸ばすことができるのが特徴です。
ワンちゃん・ネコちゃんも2頭に1頭は癌になる時代になりました。 『がん』は怖いからこそ、健康なうちに早期発見しましょう!
獣医師 宮澤 裕
《参考文献》 2021 Factors associated with survival in dogs with a histopathological diagnosis of hepatocellular carcinoma: 94 cases (2007-2018) 2004 Massive hepatocellular carcinoma in dogs: 48cases(1992-2002)